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【大家さんのための賃貸トラブル相談室】 敷引特約の有効性

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【大家さんからの御相談】

「賃貸人は,賃借人に対し,建物明渡後,敷金から,敷金の2割相当額及び賃借人が負担すべき一切の債務を控除した残額を返還する。」旨の敷引特約は有効ですか?入退去の際には,ハウスクリーニングや原状回復費用,新たな入居者の募集費用等の費用がかかるので,このような敷引き特約を認めてもらえると有難いのですが・・・

【弁護士のアドバイス】

1 敷引き特約の有効性・問題点

敷金とは,賃借人がその債務を担保する目的をもって金銭の所有権を賃貸人に移転し,賃貸借終了の際に賃借人に債務不履行がないときは賃貸人がその金額を返還し,債務不履行があるときはその金額中から当然弁済に充当されることを約して授受される金銭とされています(大判大正15・7・12)。ところで,敷金から一定の金額を無条件に控除して残額を返還する旨のいわゆる敷引特約については,従来から,その有効性が争われる事例が多発していました。

2 最高裁判所が示した判断基準

この点に関し,最判平成23・3・24は,「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である」とした上で,事案について検討し,①敷引金の額が,契約の経過年数や建物の場所,専有面積等に照らし,建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえないこと,②敷引金の額は,経過年数に応じて賃料の金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていること及び③賃借人は,契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていないことなどを考慮して,特約が消費者契約法10条により無効であるということはできないと判示しています。

3 ポイント

敷引特約を設ける場合には,賃貸借契約書に敷引金の総額を必ず明記し,賃借人から,了解のサインをもらっておくことが不可欠です。

上記最高裁判決は,事例判断として,①敷引特約の額が賃料の3.5倍にとどまっていること,及び,②近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引金の相場に比して大幅に高額であることがうかがわれないことを考慮して,消費者契約法10条により無効であるということはできないとした点がポイントです。

敷引特約を設ける場合には,契約書の文言が適切かどうか,敷引額が高額に過ぎないかなどの点について慎重な検討が必要です。

敷引特約の導入をお考えの方,敷引特約に関連してトラブルが発生した方は,是非一度,当事務所まで御相談下さい。